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大分地方裁判所 平成2年(ワ)837号 判決 1992年6月04日

原告

広田隆俊

右訴訟代理人弁護士

牧正幸

被告

浦末佐代子

被告

岩倉綾子

右両名訴訟代理人弁護士

古田邦夫

主文

一  原告に対し、

1  被告浦末は、金六三万八〇〇四円及びこれに対する平成四年一月二五日から完済まで年一割八分の割合による金員を、

2  被告両名は、連帯して、金九〇万四八八二円及びこれに対する平成二年八月一二日から完済まで年一割五分の割合による金員を、

3  被告岩倉は、金一二四万六九二四円及びこれに対する平成二年八月一二日から完済まで年一割八分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

二  原告の被告両名に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その二を被告両名の各負担とする。

四  第一項は仮に執行することができる。ただし、被告浦末の場合金五〇万円の、被告岩倉の場合金八〇万円の各担保を供すれば、提供被告は当該被告に対する同仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一求める裁判

一請求の趣旨(原告)

1  原告に対し、

(一) 被告浦末は、金四五〇万円及びこれに対する平成二年八月一二日から、

(二) 被告両名は、連帯して金一〇〇万円及びこれに対する右同日から、

(三) 被告岩倉は、金一四〇万円及びこれに対する右同日から、

各完済まで年三割の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は、被告両名の負担とする。

3  仮執行の宣言

二請求の趣旨に対する答弁(被告両名)

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二主張及び争点

一請求の原因

(争点は傍線部分。〔〕内は争点に関する相手方の主張。他の事実関係は争いがない。※は争点に関する当裁判所の認定、理由は後述)

1  釘宮美智子は、いずれも元本の一割を天引きし、利息及び損害金を利息制限法の最高限度とした上〔争点1〕、次のとおり金員を貸し付けた(以下貸付金は符号で特定)。

(一) 被告浦末に対する貸金

符号 貸付日  貸付金額 弁済期

(平成年月日)   (平成年月日)

A 1.12.25 三〇万円 2.1.24

B 2.1.23 二〇万円 2.2.2

C 2.4.12 三〇万円 2.4.23

D 2.6.5 五〇万円 2.6.15

E 2.6.8 二〇万円 2.6.18

F 2.6.11 六〇万円 2.6.21

G 2.7.3 二〇万円 2.7.13

(二) 被告浦末の連帯保証のもと、佐々木近子に対する貸金

符号 貸付日  貸付金額 弁済期

(平成年月日)   (平成年月日)

H 1.12.25 三〇万円 2.1.4

I※2.1.23  二〇万円 2.2.2

〔争点2。2.1.30〕

J 2.1.30 五〇万円 2.2.9

K 2.7.3  一二〇万円  2.8.2

〔争点3。※二〇万円〕

(三) 被告浦末の連帯保証のもと、被告岩倉に対する貸金

符号 貸付日  貸付金額 弁済期

(平成年月日)   (平成年月日)

L 2.8.1 一〇〇万円 2.8.11

(四) 被告岩倉に対する貸金

符号 貸付日  貸付金額 弁済期

(平成年月日)   (平成年月日)

M 2.1.25 三〇万円 2.2.4

N 2.6.4 三〇万円 2.6.14

O 2.6.8 五〇万円 2.6.14

P 2.8.1 一〇〇万円 2.8.11

(五) 被告岩倉の連帯保証のもと、佐々木に対する貸金

符号 貸付日  貸付金額 弁済期

(平成年月日)   (平成年月日)

Q 2.6.4 五〇万円 2.6.14

2  釘宮は、原告に対し、被告両名に対する右全債権を平成二年一一月一五日譲渡し、そのころその旨通知した。

3  よって、原告は、

(一) 被告浦末に対し、AないしKの貸金合計四五〇万円、

(二) 被告両名に対し、連帯して、L(Pに同じ。)の貸金一〇〇万円、

(三) 被告岩倉に対し、M(Mについては二〇万円の弁済を受けたので元本に充当する。)ないしO及びQの貸金残金合計一四〇万円、

及びこれらに対する平成二年八月一二日から各完済まで約定の年三割の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二抗弁

1  被告浦末の弁済

Aの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

1.12.25      三万円

2.1.4      三万円

2.1.13      三万円

2.1.23      三万円

2.2.2      三万円

2.2.12      三万円

2.2.22      三万円

2.3.5      三万円

2.3.30      三万円

2.4.4      三万円

2.6.2  ※三万円〔争点4〕

2.7.3  ※三万円〔争点5〕

2.7.13  ※三万円〔争点6〕

2.7.23  ※三万円〔争点7〕

Bの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.1.23      二万円

2.2.3      二万円

2.2.13      二万円

2.2.23      二万円

2.3.4      二万円

2.3.14      二万円

2.3.24      二万円

2.4.3      二万円

2.4.13  ※二万円〔争点8〕

2.4.23  ※二万円〔争点9〕

2.5.3  ※二万円〔争点10〕

2.5.14  ※二万円〔争点11〕

2.6.3  ※二万円〔争点12〕

2.6.28  ※二万円〔争点13〕

2.7.2  ※二万円〔争点14〕

Cの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.4.12      三万円

2.5.8 八万円〔争点15〕

※三万円

2.5.15  ※三〇万円〔争点16〕

Dの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.6.5      五万円

2.6.15      五万円

2.6.26      五万円

2.7.25  ※五万円〔争点17〕

Eの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.6.8      二万円

2.6.28      二万円

2.7.18  ※二万円〔争点18〕

Fの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.6.11      六万円

2.6.21      六万円

2.7.1      六万円

2.7.11      六万円

Gの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.7.3      二万円

2.7.12      二万円

2.7.23      二万円

Hの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

1.12.25      三万円

2.2.3      三万円

2.2.13      三万円

2.2.23      三万円

2.3.5      三万円

2.3.15      三万円

2.3.25      三万円

2.4.4      三万円

Iの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.1.30〔争点19。※2.1.23〕

二万円

2.2.2      二万円

2.2.12      二万円

2.2.22      二万円

2.3.4      二万円

2.3.14      二万円

2.3.24      二万円

2.4.3      二万円

Jの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.1.30      五万円

2.2.11      五万円

2.2.19      五万円

2.3.1      五万円

2.3.11      五万円

2.3.21      五万円

2.3.31      五万円

2.4.10  ※五万円〔争点20〕

2.4.20  ※五万円〔争点21〕

2.4.30  ※五万円〔争点22〕

2.5.10  ※五万円〔争点23〕

2.5.20  ※五万円〔争点24〕

2.5.30  ※五万円〔争点25〕

2.6.9  ※五万円〔争点26〕

2.6.18  ※五万円〔争点27〕

Kの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.7.3      二万円

2  被告岩倉の弁済

Lの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.8.1      一〇万円

2.8.11 一〇万円〔争点28〕

2.9.21 一〇万円〔争点29〕

2.9.27 一〇万円〔争点30〕

2.10.1 一〇万円〔争点31〕

Mの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.1.25      三万円

2.2.4    三万円〔争点32〕

2.2.14    三万円〔争点33〕

2.2.24    三万円〔争点34〕

2.3.6    三万円〔争点35〕

2.3.16    三万円〔争点36〕

2.3.26    三万円〔争点37〕

2.4.5    三万円〔争点38〕

Nの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.6.4      三万円

以後八回にわたり各三万円の弁済〔争点39〕

Oの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.6.8      五万円

以後八回にわたり各五万円の弁済〔争点40〕

Qの貸付分

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.6.4      五万円

3  その他、被告浦末は以下のとおり弁済した。

弁済日(平成年月日) 弁済額

2.8.12 二〇万円〔争点41〕

2.9.27 一一万円〔争点42〕

2.10.2 一五万円〔争点43〕

三被告浦末の釘宮に対するその他の債権〔争点44〕

同被告は、釘宮から平成二年一月三〇日五〇万円を借り受け、同日から同年六月一八日までの間一二〇万円を支払い、六九万三三九五円の過払となった。

四相殺(被告浦末)

被告浦末は、平成四年一月二四日の本件第九回口頭弁論期日において、右二(Aの貸金分は2.7.23現在一一万二五四七円の過払、Bの貸金分は2.7.2現在九万七五三〇円の過払、Cの貸金分は2.5.15現在一〇万五八七〇円の過払、Jの貸金分は2.6.18現在六九万三三九五円の過払)及び三の各過払による返還請求債権〔争点45〕を自働債権とし、原告の同被告に対する本訴請求債権を受働債権として、対当額において相殺する旨意思表示し、平成四年五月七日の本件第一一回口頭弁論期日で、受働債権中、弁済期の早い債権から順次相殺充当する旨意思表示した。

第三証拠の関係<省略>

第四争点に対する判断

一請求の原因関係

1  争点1について

当事者間に争いがない貸金の内容及び弁済状況と証拠(釘宮証言・四四、四五項、一〇六〜一一四項、一四三項、被告浦末供述・二二〜二七項)によれば、本件各貸金は、いずれも貸付日に弁済期までの利息として元本の一割を天引きし、弁済期に元本の弁済をしなくても、その後ほぼ一〇日毎に元本の一割に相当する金員を利息として支払えば、元本の弁済期は猶予され、以後、当該貸付債務は、改めて弁済期を定めるなど、特段の事情が認められない限り、期限の定めのない債務となったものと推認されるところ、右特段の事情は認められない。したがって、別紙一覧表のとおり、被告浦末関係の本件貸金のうち、弁済期後ほぼ一〇日毎に元本の一割の利息の支払が認められ、かつ残元本が存するD、E、F、G、H、Iの各貸金は、本訴請求(同被告に対する本訴状の送達日は平成三年一月八日であることは記録上明らかである。)によって弁済期が到来したものと認められる。

本件各貸金に関し、損害金の割合についての合意を認めるに足りる証拠はないが、被告両名の主張によれば、利息について利息制限法所定の最高限度の割合による利息の支払義務を承認しているので、遅延損害金も同一割合による合意があったものと推認される。

2  争点2について

甲九、乙一の5、釘宮証言(一五〜二〇項)によれば、原告主張のとおり認められる。

3  争点3について

甲一一によれば、被告浦末主張のとおり認められる(これに反する釘宮証言・二三〜三一項は採用できず、甲一九もこの認定を左右しない。)。

二弁済の抗弁関係

1  原告側の手による証拠の散逸

釘宮証言(七四〜八九項)、被告浦末供述(二七六、二七七項)によれば、釘宮は、被告浦末から利息を受け取っても領収書を発行せず、貸金の管理のため利息の受領を大学ノートに記載していたことが認められるが、さらに、同証人は、同ノートは請求の原因2の債権譲渡直後の平成二年一一月終わりころ処分して現存しないと証言するので、衡平の見地から、立証責任を負担する弁済者の被告両名の証明度が軽減されて然るべきである。

2  乙一の証拠力

当事者間に争いがないAの貸金の弁済状況と、被告浦末作成の乙一の該当箇所(乙一の2、3、5、7、9、10、13、16、17)並びに釘宮証言(一、九〜一三項)及び同被告供述(一二、三六、四七、五〇、五五、六一、六六、七六項)とを合わせ考慮すると、当該記載部分はほぼ正確なものと認められ、同様に、いずれも当事者間に争いがないBの貸金とその弁済状況についての乙一の5、9、10、12、14、15の記載、Dの貸金とその弁済状況についての乙一の28、29、31の記載、Eの貸金とその弁済状況についての乙一の29、30、33の記載、Fの貸金とその弁済状況についての乙一の29、30、33、47の記載、Gの貸金とその弁済状況についての乙一の33、35の記載(いずれも被告浦末の借入関係部分)を同被告供述と合わせ考慮すると、その記載はほぼ正確なものと認められるから、乙一の他の記載箇所も独自で、場合によっては他の証拠と相まって、その証拠力を首肯するに足りる。

3  争点4ないし44について

(一) 右1、2の事情をふまえて、

(1) 争点4ないし7については、甲一、乙一の27、32、33、35を合わせ考慮して、被告浦末主張のとおり、

(2) 争点8ないし14については、甲二、乙一の18、20、22、24、27、31、32を合わせ考慮して、同被告主張のとおり、

(3) 争点15については、乙一の23、被告浦末供述(二六二〜二六七項)を合わせ考慮して、三万円の限度で、

(4) 争点16については、乙一の24、釘宮証言(一三四、一三五項)を合わせ考慮して、同被告主張のとおり、

(5) 争点17については、乙一の35より、同被告主張のとおり、

(6) 争点18については、乙一の34より、同被告主張のとおり、

(7) 争点19については、争点2についての認定、判断言を合わせ考慮して、原告主張のとおり、

(8) 争点20ないし26については、乙一の18、19、21、23、24、26、28、被告浦末供述(八六〜八八項、二七一〜二七五項)を合わせ考慮して、同被告主張のとおり、

(9) 争点27については、乙一の30、乙五、釘宮証言(一三四、一三五項)、被告浦末供述(八九〜一〇八項、二五三〜二六一項)を合わせ考慮して同被告主張のとおり、

それぞれ認める。

(二) しかし、

(1) 争点28ないし31については、乙四の4、6、被告浦末供述(一六七〜一八三項)、被告岩倉供述(一〇〇〜一一四項、一三一〜一三六項、二〇六〜二一五項)をもってこれを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(2) 争点32ないし38については、これを認めるに足りる証拠はない(ただし、原告は、Mの貸金について二〇万円が弁済され、元本に充当したことを自認している。後に再述する。)

(3) 争点39、40については、釘宮証言(四七、四八項)をもってこれを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(4) 争点41ないし43については、釘宮証言(一〇〇〜一〇二項)に照らせば、乙一の38、46(九月二七日欄のベガ一一万に付加された「済」は、同欄の他の「済」と、字の濃さが不自然に違う。)、乙四の4、被告浦末供述(一二三〜一四〇項、一四四〜一五三項)、被告岩倉供述(一〇〇〜一〇八項)をもってこれを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(5) 争点44について

認めるに足りる証拠はない。

4  以上をもとに、本件貸金の弁済充当関係を、利息、遅延損害金の割合については、利息制限法一条一項、二条に基づき、L(Pに同じ。)の貸金についは年一割五分、その他の貸金については年一割八分により計算する(円未満四捨五入)と、別紙一覧表のとおりである。すなわち、

(一) 被告浦末は、原告に対し、

(1) Aの貸金につき、最終弁済日の平成二年七月二三日現在一二万七七六九円の過払があるから、同額の不当利得返還請求債権を対抗できる。

(2) Bの貸金につき、最終弁済日の同年七月二日現在九万五二九八円の過払があるから、同額の不当利得返還請求債権を対抗できる。

(3) Cの貸金につき、最終弁済日の同年五月一五日現在五万五五五二円の過払があるから、同額の不当利得返還請求債権を対抗できる。

(4) Dの貸金につき、最終弁済日の同年七月二五日現在三〇万六一九八円の残元本及びこれに対する翌二六日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(5) Eの貸金につき、最終弁済日の同年七月一八日現在一四万三四六五円の残元本及びこれに対する翌一九日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(6) Fの貸金につき、最終弁済日の同年七月一一日現在三六万七四〇八円の残元本及びこれに対する翌一二日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(7) Gの貸金につき、最終弁済日の同年七月二三日現在一四万一七七〇円の残元本及びこれに対する翌二四日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(8) Hの貸金につき、最終弁済日の同年四月四日現在七万〇六〇二円の残元本及びこれに対する翌五日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(9) Iの貸金につき、最終弁済日の同年四月三日現在四万四三〇九円の残元本及びこれに対する翌四日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(10) Jの貸金につき、最終弁済日の同年六月一八日現在六八万八二六七円の過払があるから、同額の不当利得返還請求債権を対抗できる。

(11) Kの貸金につき、弁済期の同年八月二日現在一八万二七五二円の残元本及びこれに対する翌三日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(二) 被告両名は、原告に対し、Lの貸金につき、連帯して、弁済期の同年八月一一日現在九〇万四八八二円の残元本及びこれに対する翌一二日から年一割五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(三) 被告岩倉は、原告に対し、

(1) Mの貸金につき、弁済期の同年二月四日現在二七万一四六五円の残元本があるが、原告は、二〇万円の弁済を受け、これを元本に充当することを自認するので、結局、同日現在七万一四六五円の残元本及びこれに対する翌五日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(2) Nの貸金につき、弁済期の同年六月一四日現在二七万一四六五円の残元本及びこれに対する翌一五日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(3) Oの貸金につき、弁済期の同年六月一四日現在四五万一五五三円の残元本及びこれに対する翌一五日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(4) Qの貸金につき、弁済期の同年六月一四日現在四五万二四四一円の残元本及びこれに対する翌一五日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

三相殺の抗弁関係(争点45関係)

1 相殺による両債権の差引計算及び相殺充当は、相殺適状を生じた時を基準として行うことになる(最高裁昭和五四年三月二〇日判決・集民一二六号二七七頁参照)ところ、被告浦末のKの受働債権は、本来の弁済期である平成二年八月二日に弁済期が到来し、Lの受働債権は、本来の弁済期である同月一一日に弁済期が到来し、D、E、F、G、H、Iの各受働債権は、平成三年一月八日に弁済期が到来している(前記一、1参照)。他方、同被告のA、B、C、Jの各自働債権たる不当利得返還請求債権の弁済期は、履行の催告により到来するところ、同被告が、平成四年一月二四日の本件第九回口頭弁論期日に相殺の意思表示をしたことは本件記録上明らかであるから、同意思表示をもって右履行の催告と同視すべく、同日に相殺適状になったものと解される。

なお、同被告が、平成四年五月七日の本件第一一回口頭弁論期日で、受働債権中、弁済期の早い債権から順次相殺充当する旨意思表示したことは本件記録上明らかであるが、相殺適状後、直ちに元本債権相互間の相殺の順序を指定したものとはいえないので、相殺に供される右A、B、C、Jの各自働債権(不当利得返還請求債権)と、相殺の目的となる同被告のD、E、F、G、H、I、K、Lの各受働債権(貸金残債権)という具合に、相互に複数の元本債権を含む場合、元本債権間の相殺の順序については、まず、民法五一二条、四八九条の趣旨に則り、元本債権相互間で相殺に供しうる状態となった時期の順に従って相殺の順序を定めた上、その時期を同じくする複数の元本債権相互間及び元本債権とこれについての利息、遅延損害金との間で同法四八九条、四九一条の規定の準用により充当を行うべきである(最高裁昭和五六年七月二日判決・民集三五巻五号八八一頁参照)。

2  本件について、これをみるに、

(一) 平成四年一月二四日の相殺適状時の、被告浦末の自働債権(不当利得返還請求債権)は、Aの貸金関係の一二万七七六九円、Bの貸金関係の九万五二九八円、Cの貸金関係の五万五五五二円、Jの貸金関係の六八万八二六七円(以上合計九六万六八八六円)であり、同一順位で相殺に供されることになる。

(二) 同時期における被告浦末の受働債権の残元本は、Dの貸金関係の三〇万六一九八円、Eの貸金関係の一四万三四六五円、Fの貸金関係の三六万七四〇八円、Gの貸金関係の一四万一七七〇円、Hの貸金関係の七万〇六〇二円、Iの貸金関係の四万四三〇九円、Kの貸金関係の一八万二七五二円、Lの貸金関係の九〇万四八八二円であるところ、同被告に利益の多いのは、利息、損害金の割合からD、E、F、G、H、I、Kの貸金関係であり(四八九条二号)、これらの間で相殺に供される順序は弁済期の順序に従い(同条三号)、まずK、次いで同一順序でD、E、F、G、H、Iとなる。

(三) ところで、Kの受働債権一八万二七五二円については、弁済期の翌日である平成二年八月三日から右相殺適状時の平成四年一月二四日までの一年と一七五日間分の遅延損害金四万八六六七円が生じている(計算は、18万2752円×0.18×(1+175÷365)=4万8667円となる。)から、右(一)の自働債権九六万六八八六円と、右Kの受働債権が、その損害金、元本の順で相殺充当される結果、Kの受働債権は全部消滅し、自働債権は七三万五四六七円(計算は、九六万六八八六円−四万八六六七円−一八万二七五二円=七三万五四六七円となる。)が残存することになる。

(四) 次に、同一順位のD、E、F、G、H、Iの各受働債権につき、各最終弁済日の翌日から本訴請求による弁済期の到来した平成三年一月八日までの利息と、平成三年一月九日から右相殺適状時の平成四年一月二四日までの遅延損害金(利息、損害金とも同一割合の年一割八分)を計算する。

(1) Dの貸金のそれは、八万二七四九円である(計算は30万6198円×0.18×(1+183÷365)=8万2749円となる。)。

(2) Eの貸金のそれは、三万九二六六円である(計算は14万3465円×0.18×(1+190÷365)=3万9266円となる。)。

(3) Fの貸金のそれは、一〇万一八二七円である(計算は36万7408円×0.18×(1+197÷365)=10万1827円となる。)。

(4) Gの貸金のそれは、三万八四五三円である(計算は14万1770円×0.18×(1+185÷365)=3万8453円となる。)。

(5) Hの貸金のそれは、二万二九八〇円である(計算は7万0602円×0.18×(1+295÷365)=2万2980円となる。)。

(6) Iの貸金のそれは、一万四四四四円である(計算は4万4309円×0.18×(1+296÷365)=1万4444円となる。)。

そこで、(三)の残存自働債権七三万五四六七円と、受働債権である右利息及び遅延損害金の合計二九万九七一九円との間で相殺すると、同利息及び遅延損害金は全部消滅し、自働債権は四三万五七四八円が残存することになる。

(五) 次に、(四)の残存自動債権四三万五七四八円と、受働債権である右同一順位のD、E、F、G、H、Iの各貸金の右相殺適状時の平成四年一月二四日現在の残元本合計一〇七万三七五二円との間で相殺すると、右自働債権が全部消滅し、右受働債権のうち六三万八〇〇四円が残存することになる。

3  そうだとすれば、原告に対し、

(一) 被告浦末は、D、E、F、G、H、Iの各貸金の残元本六三万八〇〇四円及びこれに対する相殺適状時の翌日である平成四年一月二五日から完済まで年一割八分の割合による遅延損害金、

(二) 被告両名は、連帯して、Lの残元本九〇万四八八二円及びこれに対する弁済期の平成二年八月一二日から完済まで年一割五分の割合による遅延損害金、

(三) 被告岩倉は、

(1) Mの残元本七万一四六五円及びこれに対する弁済期の翌日である平成二年二月五日、

(2) Nの残元本二七万一四六五円及びこれに対する弁済期の翌日である同年六月一五日、

(3) Oの残元本四五万一五五三円及びこれに対する弁済期の翌日である同年六月一五日、

(4) Qの残元本四五万二四四一円及びこれに対する弁済期の翌日である同年六月一五日、

の後である同年八月一二日(いずれも、原告の主張する起算日)から、各完済まで年一割八分の割合による遅延損害金(以上の残元本合計は一二四万六九二四円)、

の各支払義務がある。

四よって、原告の本訴請求は、右三、3の限度で理由があるものとして認容し、その余は失当であるからいずれも棄却する。

(裁判官簑田孝行)

別紙<省略>

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